生命保険契約を活用することで、企業経営や事業存続にお役に立てる場合があります。解約払戻金や契約者貸付制度は資金繰りを良化させる手段の一つです。

今回は、企業の資金繰り改善方法として
・保険契約の解約
・契約者貸付
の2つの方法のポイント・メリット/デメリットを解説いたします。

保険契約の解約による資金繰り改善

保険契約を解約すると、払戻金を受け取ることができ、新たな「資金」として運転資金や支払いに活用できます。(保険商品によっては払戻金がないものもあります

解約金が入り、解約によって保険料という支出がなくなるため、資金繰りの改善に役立ちます。

保険を解約すると資金繰りが改善するなんて当然でしょう、と思われる方も多いと思いますが、実は注意すべき点もあります。解約によって、大きなマイナスを引き起こすこともあり得るのです。

下記にいくつかポイントをまとめましたので、ご確認下さい。

資金と利益を同時にもたらす

法人契約での解約の場合、解約金は「利益計上」(原則*)となります。保険の解約によって資金(解約金)と同時に利益も増えるため、今期の利益を減らしたくない場合に、有効な手段となります。
*原則、利益計上と書いたのは、商品によって経理処理が異なる場合があるからです。

また通常、保険契約の解約は受け付けてから数日で手続きが完了することから、迅速に資金を調達したい場合にも有効と言えます。

解約のデメリット

解約による資金繰り改善には、デメリットもあります。

デメリット①:解約払戻金が貯まるのに時間がかかる

そもそも解約払戻金がない商品もありますので、その場合はこの方法は取れませんが、解約払戻金がある商品でも、契約して間もない時は、解約金がほとんど貯まっていない、ということが多いです。

下記の契約者貸付制度にも言えることですが、契約してからある程度期間を経ていないといけないというのがデメリットです。

デメリット②:保障がなくなる

当然なのですが、解約すると保障がなくなってしまいます。他に法人契約がある場合は良いのですが、ない場合は無保障となってしまい、非常に高いリスクを抱えることになります。

また、健康面で再加入できないケースもありますので、要注意です。

デメリット③:同じ商品があるとは限らない

同じような保険商品があるとは限りませんので、入り直す場合であっても以前よりパフォーマンスの悪い商品しか選択肢がない場合があります。保険も金融商品ですので、似たタイプの商品でも時期によって内容が変わってしまうこともあります。

解約の際の注意点

解約は資金と同時に利益をもたらすため、資金繰りを改善したい中で安易に解約をしてしまうと、法人税率そのものが上がってしまう危険性があります。

法人税は、法人所得800万を境に税率が変わります。解約をすることで、保険の解約に関してだけではなく、会社全体の利益に対する税率(事業税等含む)を10%近く押し上げてしまうかもしれません。
その結果、納税額を引き上げてしまうこともあり得ます。保険契約だけではなく、法人所得を確認しながら、解約した方が良いかどうかを検討しましょう。

一方、契約者貸付制度は、解約とはまた違う効果を生み出せます。

契約者貸付による資金繰り改善

契約者貸付制度とは、保険契約の解約払戻金から最大90%まで、貸付を受けることができるという制度です。

例えば、解約払戻金が500万円あったら、400万円まで引き出して使うことができるのです。(契約内容等でいくらまで貸付を受けられるかは変わります)
この契約者貸付制度は、自身の契約の解約払戻金を引き出すとは言え、制度としては「貸付」になりますので、利益計上とはならず、負債扱いとなります。

そして、利益計上とはならないことから、利益は必要ないけど現金だけ欲しい、という時に有効な手段となります。
解約と異なり、法人税率に影響するようなことはありません。契約者貸付は、書類だけの手続きで良く、数日で迅速に資金調達をできるというのもメリットです。

契約者貸し付けのデメリット

では、契約者貸し付けのデメリットは何でしょうか?

デメリット:金利がついてしまう

契約者貸付は、自身の契約の資金を使うとはいえ、保険会社からの貸付となりますので、金利がつきます。借りている間は利息の返済が必要となり、その点がデメリットになります。

契約者貸付を受ける場合は、返済に関しても考えながら利用する必要があります。

保険会社の特別対応

新型コロナウイルス感染症の影響により、現在は契約者貸付の金利がゼロになる特別対応を保険会社が行っています。
詳しくはこちらをご覧ください。

まとめ

このように、同じ「資金繰りを改善」するという目的でも、それぞれにメリット・デメリットがあるため、生命保険の保全手段が変わります。

項目解約契約者貸付
メリット・すぐに資金調達が可能
・保険料という支出もなくなる
・すぐに資金調達が可能
・保障はそのまま継続
デメリット・保障がなくなってしまう・金利が発生する
特記事項解約払戻金は原則利益計上借入金は負債計上

会社で契約している保険契約のメンテナンスは、経営状況や環境に応じて最適な手段を取る必要があります。手段を間違えてしまうと、思わぬデメリットを受けてしまうかもしれないからです。

ご自身の会社の保険担当者とメンテナンスが発生する前に打ち合わせをしておきましょう。